うつ病で動けない妻を「役立たず」と責める夫の言動は精神的DVに該当する可能性があります。病気による生活能力の低下と、その人の存在価値は別物です。夫の言葉を信じず、自分を責めないための視点と、壊れた信頼関係を修復するための気づきについて解説します。
DVとうつ病
この二つには、実は深い関係があります。
けれど、その関係は、案外知られていません。
多くの人が思い浮かべるのは、
夫から日常的にDVを受けている妻が、
強いストレスによってうつ病を発症するケースではないでしょうか。
もちろん、そのようなことはあります。
長い間、恐怖や緊張の中で暮らしていれば、
心が限界を迎えることは決して不思議ではありません。
ただ、私がこれまで出会ってきた過酷なDV被害者の方々は、
意外にも表面的にはよく動いていました。
笑顔を見せ、子どもを守り、
現実的な問題に対処し続けている。
けれどそれは、元気だからではなく、
あまりにもつらい現実の中で生き延びるために、
自分の感情を感じないよう、心を麻痺させていたのです。
一方で、動けなくなるほどうつ状態が深くなっている方もいるでしょう。
ただ、そのような方は、DVカウンセリングを受けに来ることさえ難しいのかもしれません。
今日は、その反対のケースについて書きたいと思います。
妻が先にうつ病を発症した場合
仕事や人間関係、育児、介護など、さまざまなことが重なり、妻がうつ病になることがあります。
症状が重くなれば、仕事だけでなく、
家事や子育てもできなくなり、
長期間、家で寝たきり状態になる人も少なからずいらっしゃいます。
そのとき、病気の妻を支え、家族全体を立て直そうと動ける夫がいる一方で、
これまで仕事中心で暮らしてきて、家事や子育てまで担う余裕のない夫もいます。
突然、生活の負担が大きくなり、
「自分ばかりが大変だ」
「なぜ自分がここまでしなければならないのか」
という怒りや不満を、妻へ向けてしまうのです。
そして、子どもの前で、
「お母さんは何もできない」
「お母さんは役立たずだから、言うことなんか聞かなくていい」
と妻を蔑むようになる。
これは、単なる夫婦不和ではありません。
妻の人格や尊厳を傷つける、精神的なDVに当たり得る行為なのです。
そして同時に、子どもの心にも深い影響を与えます。
子どもにとって母親も大切なかけがえのない存在です。
それを父親から、
「お前の母親は価値のない人間だ」
と繰り返し聞かされたら、子どもの心はどうなるでしょうか?
子どもは、両親の間で引き裂かれるような苦しさと同時に、
自己否定も強めて行きかねません。
ただでさえ、母親がうつ病になり、以前のように動けなくなったことは、子どもにとって大きな変化です。
そこへ、母親を否定する父親の言葉が重なり、その言葉によってさらに傷ついていく母親の姿を見続ける。
それは、子どもの安心感や親への信頼、自分自身を肯定する感覚にも影響を与える可能性があります。
けれど、うつ病になった本人は、夫の言葉を跳ね返す力を失っています。
子どもの食事を作れない。
学校のことも十分に見てあげられない。
そうした現実があるために、
「夫の言う通り、自分は役立たずなのかもしれない」
「母親失格なのかもしれない」
と思い込み、ますます自分を責め、容態を悪化させることにもなりかねません。
存在価値は変わらない
病気によってできないことが増えたことと、その人の価値は、まったく別ものです。
家事ができないことも、子どもへの愛情がないからではありませんよね。
病気の症状で動けないのです。
うつ病の妻に必要なのは、
人格を否定されることではなく、治療と休養、
そして現実的な支援です。
夫にも苦しさはあるでしょう。
仕事をしながら家事や子育てを背負い、余裕を失っていることもあると思います。
もしかしたら、夫自身にも、支援が必要かもしれません。
けれど、苦しいことは、妻を傷つけてよい理由にはならないのです。
ましてや、存在価値を否定したり、尊厳を傷つけることは
決してしてはいけない
精神的暴力であることを、
知らなければなりません。
しかし、夫本人には、DVをしている自覚がないかもしれません。
むしろ、
「自分こそ病気の妻に迷惑をかけられた被害者だ」
と思っていることさえあります。
仮に妻のうつ病が回復に向かったとしても、
その後の家族の問題は残り続け、
また別の問題へと移行して行く。
傷ついた妻の尊厳。
壊れた夫婦の信頼。
揺らいだ母子の関係。
子どもの心に残った恐怖や混乱。
それらを修復するには、長い時間が必要になるかもしれません。
だからこそ、早い段階で夫は
「病気の妻に困らされているだけだ」
「家族のために怒っているだけだ」
と正当化するのではなく、
自分の言葉と態度が、妻と子どもの心に何を起こしているのかに気づく必要があります。
そして妻は、
自分を責めないでください。
あなたを責める夫の言葉を、信じないでください。
うつ病は、心が弱いからなる病気ではありません。
誰もがなり得る病気なのです。
自分がうつを患ったことで、
失った時間、出来なかったこと、迷惑をかけてしまった事実があったとしても、
あなたの存在価値と、何の関係もありません。
あなたが今日一日を生きているだけで、
どれだけ尊いか。
かけがえのないか。
この言葉をあなたのその心で
受け取っていただけたら、
こんなに嬉しいことはありません。