発達障害の夫と暮らす中で感じる「一人でいるより孤独」な状態、カサンドラ症候群。心のすれ違いが起きるメカニズムと、傷ついた妻の心が自分を取り戻すための具体的な視点を解説します。
発達障害の夫との結婚生活で、妻が「一人でいるより孤独」になる理由
「夫婦なのに、どうしてこんなに寂しいんだろう」
「何度伝えても、私が何に傷ついたのかわかってもらえない」
「病気になっても心配してくれない。困っていても気づいてくれない」
そんなことが何年も積み重なり、
この人と夫婦でいる限り、私は一生、誰にも共感されないまま生きていくのだろうか。
そんな絶望感を抱えてしまう妻がいます。
いわゆる「カサンドラ症候群」と呼ばれる状態です。
カサンドラ症候群は正式な医学的診断名ではありません。
けれど、夫婦間で感情的な交流が成り立たない状態が長く続くと、
妻がどうしようもない孤独感に耐えられなくなり、やがて心身の不調を訴えるようになるという問題は、現実にあります。
ASD(自閉スペクトラム症)の傾向が強い夫は、
相手の表情や言外の意味を読み取ったり、
暗黙のコミュニケーションを理解したりすることが苦手であることが多く、
それが夫婦関係にも影響すると言われています。
たとえば妻が、
「今日、すごく嫌なことを言われたの」
と言ったとします。
妻が求めているのは、
「何て言われたの?」
「それは嫌だったね」
「大丈夫?」
「よく頑張ったね」
という気持ちの交流ですよね。
ところが夫は、
「それ、今俺に言うこと?」
「その時、相手に言えばいいじゃん」
「で、夕飯は?」
と返される。
夫としては問題を解決しようとしているだけかもしれません。
でも妻には、
「私の気持ちなんて、どうでもいいんだ」
と、置き去りにされたような感覚になります。
言葉がきつい。思いやりを感じない。話題はいつも自分の細かいこだわりのことばかりで、妻への扱いが雑で、どうでもいい感じ。
こちらから話しかけなければ会話がなくなってしまう場合もあります。
妻が病気でも、泣いていても、放置する。
そんな毎日が10年、20年と続いていけば、
妻の心は少しずつ擦り減っていきます。
人は、一人だから孤独になるのではありません。
「わかってほしい人に、わかってもらえない」と感じた時に、最も深い孤独を感じるのです。
「共感性がない」のではなく、夫婦の“受信方式”が違う――それでも妻が傷つく理由
ここで一つ、大切なことがあります。
「発達障害の人には共感性がない」
と断定することはできません。
自閉スペクトラム症の共感については個人差が非常に大きく、そもそも「共感」を正確に測る方法自体に、難しさがあります。
夫は一見、妻が病気や泣いている時に、冷たく放置しているだけのように見えていても、
内面で何を思っているかは、わかりません。
もしかしたら、ものすごい不安と心配が襲って来ていて、脳内はパニックを起こして、固まらざるを得ないのかもしれません。
どうしたらいいのか?すぐ答えが見えなくて、その場にいられない心境になって立ち去っていることも考えられます。
つまり、妻のことがどうでもいいからそうなっているのではなく、
発達障害特有の反応の仕方に
なっているだけなのかもしれないのです。
夫は妻を愛していないわけではない。でも、
妻は夫の態度から、愛されていると感じることができない。
これが、発達障害の夫と妻との間に生じやすい、ジレンマだと思います。
夫には、夫なりの愛情があることがあります。
毎日会社へ行き、
稼いだお金を家族のために使う。
壊れたものを直す。
頼まれたことはする。
本人にとっては、それこそが「家族を愛している証拠」であることも多いです。
ところが妻が欲しいのは、
「大変だったね」
「今日は疲れたでしょう」
という、自分の心を見てもらうことだったりします。
同じ景色を見て、同じ感動を共有したり、笑い合ったり、慰め合ったり、励まし合ったりすることが欲しいのです。
けれど夫は、
「ちゃんと働いているじゃないか。何が不満なの?」
としかわかりません。
妻にとってみたら、
そういうことではないんですよね。
このズレが延々と続いたとしたら、どうなるでしょうか?
私は夫婦関係のご相談を受ける中で、
夫婦問題は「どちらが正しいか」だけを追いかけても、ほとんど解決しないと感じています。
この場合、どちらも悪くはありません。
ただ、妻は日々の生活の中で、
温かみのある心の交流を感じたいだけ。
夫は夫で、精一杯家族のために、
頑張っているのです。
しかし妻の心は傷つき、孤独になり、
身体症状が出るまでに追い詰められて行きます。
「夫は、悪気がないのだから、わかってあげましょう。そのくらい、我慢しましょう」では、妻は救われないのです。
大きな問題の奥にある、夫の発達障害
夫の発達障害は、時として、「共感力が乏しい」だけに収まらない場合もあります。
暴言を吐く。
妻を軽視する。
威圧する。
DVが起こる原因を突き詰めて行った結果、夫の発達障害が隠れていたケースもあります。
ADHDの夫の場合、衝動性や刺激を求める傾向が強さから、
新しい恋愛関係の高揚感や
その瞬間の欲求を優先する特性から、不倫などの性的なリスク行動につながることもあります。
すべてのADHDの人が、不倫をするわけではありませんが、
平気で不倫をするように見える夫の背景に、
発達障害の特性があった、ということは実際あります。
発達障害だからDVをする、不倫をする、ということではありませんが、
周囲からは理解しづらい言動の原因が、発達の特性で説明できることがある、ということです。
###カサンドラ状態に陥りやすい妻の特徴。
また、発達障害の夫を持つ妻のすべてが、カサンドラ症候群になるわけではありません。
カサンドラ状態に陥る妻側にも、ある特徴を見ることができます。
それは、妻が悪いということではなく、ただ、
「我慢する力が、とても強い」ことです。
何度傷ついても、
「私の伝え方が悪いのかな」
「もっと優しく言えばわかってくれるかも」
と自分の中で処理しようとするんです。
特に幼い頃から、親の機嫌を読んできた人。
自分の気持ちより親の気持ちを優先させてきた人。
「そんなことで泣くな」
「あなたが我慢しなさい」
と言われて育った人。
安心して甘えることができなかったそんな女性ほど、
「愛されるためには私が相手に合わせなければならない」
という夫婦関係を、無意識に続けようとするのです。
「カサンドラになる妻は毒親育ちが多い」とは言い切れませんが
私がカウンセリングを通して感じてきた一つの傾向として、
我慢が当たり前になっている妻が、身体を壊すまで、夫に合わせている夫婦は、多いと思います。
障害の理解だけでは終わらない
この問題は、夫の発達障害を理解して終わりではないのです。
「私は、なぜここまで我慢してきたのだろう」
妻が自分の在り方にも目を向ける必要があると思います。
カサンドラ症候群から抜け出すためは、夫に伝えて、夫を変えるより先に、自分の心を取り戻さなければなりません。
まず、
「夫と少しでも分かり合えたら、私は幸せになれる」
という視点から、少しずつ視野を広げて行くことです。
これは夫を諦める、という意味ではありません。
夫に理解できることと、できないことを見極めるのは大事ですが、
「夫は私のほしいものは、与えることができないのだ」と諦めることはありません。
あなたの心の命綱を握っているのは、一体誰なのでしょうか?
夫ですか?親ですか?子どもですか?それとも、自分ですか?
きっとあなたの周りにも、
あなたが安心して話せる場所、
そして、同じ美しいものを見て、「きれいだね」と共感し合える人間関係は必ずあります。
何よりたいせつなのは、
自分の感じていることを、自分まで否定しないことです。
夫に、理解されなくても
あなたが傷ついたなら、
あなたの中では傷つく出来事だったのです。
その感覚まで夫に判定してもらう必要はありません。
そして、暴言、威圧、暴力、経済的支配などがある場合は、「発達障害だから仕方ない」で片づけないでください。
あなたがこれ以上、自分の心を置き去りにしないためにはどうしたらいいのか。
そこから一緒に考えていきたいと思っています。